むかしむかし、和歌山に大殿さまと呼ばれる殿さまがいました。
とてもらんぼう者の殿さまで、江戸の藩邸にいるときには、「隣の松平邸の高殿で夕涼みしている女が、自分の屋敷を見て笑っている」と、言って、鉄砲を撃ったのです。
この事が幕府に知れて、大殿さまは隠居(いんきょ)を命じられました。
ある日の事、この大殿さまがこんな話しを聞きました。
「貴志川(きしがわ)の鯉のふちに住んでいる大鯉はそのふちの主で、村人はだれも手出しをしない」
そこでさっそく、大殿は庄屋(しょうや)を呼び寄せて、「その鯉を一口食ってみたいから、生け捕るように」と、言いつけたのです。
びっくりした庄屋は、「それだけは、ごかんべんを。
ふちの主を捕まえたりしたら、きっと恐ろしいたたりがあります」と、断ったのですが、大殿さまは許しません。
「嫌と申すか?!もし生け捕りに出来なかったら、代わりにお前の腹を切り開くとしよう」
そこで庄屋は仕方なく、生け捕りの準備をはじめました。